2006年05月01日

「小早川伸木の恋」

最近のTVドラマはほとんど観ていないが、フジテレビの「小早川伸木の恋」は愉しめた。軽いタッチなのだが、観るものをひっぱってゆく力がある。
主題歌・ナナムジカの「くるりくるり」が気に入ったので、珍しくCDを入手した。
歌詞にある
《惜しみなく抱きしめて 心が眠れる場所を与えつづけよう》
が、ドラマのテーマと重なる。

大学病院に勤務する外科医・小早川伸木(唐沢寿明)は、嫉妬深い妻の妙子(片瀬那奈)から得られぬ「心が眠れる場所」を、盆栽教室の作田カナ(紺野まひる)にみいだし、離婚を決意する。
妙子の狂気じみた嫉妬深さは、子ども時代のトラウマから生じているのだが、それを解決する意思・力量は、伸木にはない。
伸木の友人である弁護士・仁志恭介(藤木直人)は、伸木がカナとの人生の再出発を決意し、カナが自分ではなく伸木に惹かれていることを悟った時点で、カナと伸木を結びつけることに尽力する。ひたむきに愛する対象にむかってゆく伸木とは対照的に、なにを考えているのかわからない不気味さと潔さを感じさせる藤木の抑制された演技がいい。ニヒルだけれど、熱い。
残念なのは、かんじんのカナ役の紺野まひるが幼稚すぎて、ミステリアスな要素に欠けるため、感情移入できない。適役はだれかと考えたが、思いつかない。

4人のなかで最も魅力的なのは仁志だ。愛する女性が友人に惹かれていると知り、それを優先させるというのは、よほど大きな愛がなくてはできない。それをクールにやってのけるところがいい。

妙子がようやく離婚を決意するが、カナは伸木から去ってゆく。そのときのカナのセリフから『クレーヴの奥方』(生島遼一訳・岩波文庫)を想起した。作者はラファイエット夫人(1634―1693)。
カナは伸木との結婚は"夢"だといった。夢なら、いつかは醒めるという意味なのか。ドラマのなかでは、簡単に処理されている。
クレーヴの奥方は、美貌の貴公子ヌムール公の熱烈な求愛を、男の愛は永遠につづかないという確信のもとに退ける。結婚後、公がよその女性にこころが移ったときの死ぬような苦しみを未然に防ぎたい、という強固な意思である。

クレーヴ殿は、会った最初の日から結婚後も変わらず奥方に激しく恋の炎を燃やしつづけているのだが、それは奥方に愛情がないと思ったから持続したのだと、奥方は認識している。
宮廷生活から遠ざかるためとはいえ、奥方は夫のクレーヴ殿によその男に恋しそうだと、前代未聞の告白をし、自己の恋心にブレーキをかけようとする。が、殿は激しい絶望のせいで病死する。

はっきりしているのは、クレーヴの奥方が殿に抱いていたのは敬意と感謝の域をでなかったということ。恋心はなかった。それを殿は知りつつ結婚したので、完全に幸福ではなかったという自覚があった。

一方、結婚後も愛を貫いた例として柳原白蓮と宮崎龍介のケースがある。
以前に永畑道子の『恋の華・白蓮事件』(文春文庫)を読んだが、白蓮の逞しさには感服する。
ふたりの関係性の根底に思想が貫かれていたから、愛は色褪せなかったのだろう。







miko3355 at 15:24│TrackBack(0)TV・ラジオ 

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