2006年05月22日

ザ・ノンフィクション「愛と笑いをください」

日曜日/14:00〜15:00/フジテレビ放映の「ザ・ノンフィクション」という番組は、NHK放映のドキュメンタリーにはない泥臭さを買っているので、よく観ている。
2006/01/12放映の「司馬遼太郎が小学生に託した日本」は秀逸だった。NHKで放映されてもおかしくない内容だったのが異色。制作協力・ドキュメンタリージャパン。

2006/05/07放映の「愛と笑いをください〜女子高生漫才子育て記 別れの舞台〜」は、制作協力・オルタスジャパン。語りは宮あおい。
なお細かいことだが、「愛と笑いをください」はいいタイトルだが、新聞の番組欄には記されていない。それをみてわたしが録画するかどうかの判断をしているということもあり、大切な要素ではないかと思う。
本番組に限ったことではないが、最近の番組制作の常態として、過剰なナレーションとテロップには閉口する。観る側の想像力のなかで自由に遊ばせてほしい。そこまでの"親切"をしないと、視聴率が下がるのだろうか。

オープニングシーン

番組のトップで主要な場面の映像とナレーションが流れる。これはどのような効果を狙っているのだろう。わたしは観る愉しみが削がれてしまったので、不必要に思えるのだが。

漫才コンビ「たんたん」

2005年春、スタッフははじめて姉妹漫才をしている姉の夕佳さん(19)と妹の有希(18)さんを訪ねた。ふたりは大阪市淀川区で同居している。
小学生のころ両親は離婚。施設で暮らすことになった日、ふたりの眼を釘付けにしたのは漫才だった。

有希 「半年ぶりぐらいにメッチャ笑った。こんなにどん底でも笑うことってできると、はじめて思って。ほんま幸せな気分になった、あのとき、ふたりで」

ふたりは「なにがなんでも漫才師になろう」と決意し、大手プロダクションの養成所に通う。
2004年、「新人お笑い尼崎大賞」で大賞受賞。
コンビの名は「たんたん」。虎視眈々と幸せをつかもうという願いがこめられている。
ふたりの大きな目標は、高校生のお笑い選手権「M-1甲子園」に優勝すること。一昨年、決勝戦まで勝ち進んだのに、姉の夕佳さんが学費滞納のために高校中退していたことがわかり、失格になってしまった。高校生らしく、お得意の遅刻ネタで挑戦。妹がつっこみ、姉がぼける。ときどきお姉ちゃんが天然ぼけ。ネタも台本もふたりで考え、稽古しながら練りあげていく。

姉の夕佳さんは、2005年3月9日に乃海(のあ)くんを出産後、4月に通信制高校に入学。妹の有希さんは同じ高校の定時制に通う先輩。これで晴れて「M-1」に出場できる。
(番組のトップシーンで、出産の映像が流れた)

乃海くんは、生後3ヵ月をまえに首がすわった。夕佳さんは乃海くんが昼寝をしている横で、内職(お灸のもぐさを1つ詰めて30銭)をしながらいう。
「大学までわたしが出してあげようと。一応ですよ、思ってますから」

スタッフらしき男性がその理由を訊くと、女子高だったこともあり、親に甘えられるクラスメートが羨ましかった。乃海くんにはそんな想いをさせたくないからだという。

姉の夕佳さんが外出するときは、妹の有希さんが母親役に回る。でもケンカはしょっちゅうで、夫婦ゲンカみたいな感じ。すぐ怒る姉。すぐ謝る妹。

夕佳さんのボーイフレンド

2005年6月、姉の夕佳さんに、中谷公太くん(19)というボーイフレンドができた。実家は奈良県。いまは大阪のお姉さんの家から通っている。悲しい恋のはじまり。

2005年8月、中谷くんが住みこみ、子育てをしている。どうも夕佳さんが誘ったらしい。夏休みになって、いつも一緒にいる中谷くんに乃海くんもなついている。妹の有希さんも4人の暮らしを認めている。
中谷くんは母子家庭で育ち、父親の記憶がない。

中谷 「いいお父さんになりたいという気もちが強いんですよ」

「M-1甲子園」予選会

「M-1甲子園」予選会前日、3分のもち時間内に、何度繰りかえしても収まらない。ふたりはイライラをぶつけあう。愛する乃海くんのためにも、夢のデビューをしたい。

予選会当日、緊張している姉の夕佳さんに対し、悠然としている妹の有希さん。ネタの時間はなんとか3分に詰めた。あとはプレッシャーとの闘い。
しかし予選合格者に「たんたん」は入らなかった。
帰宅して今後についてふたりで話しあっているところへ、テレビ局からの出演依頼が携帯へ入る。深夜放送での路上ライブ。

不器用な恋

実家に夕佳さんを連れてゆき、母親に逢わそうとする中谷くんの気もちがうれしいのに、夕佳さんは決心がつかなかった。

中谷 「夕ちゃんはぜんぜん自分の家族とか大事じゃないし、いつでも切れるっていうけど、オレは無理やなあとか。家族に対しての価値観がちがうから」

夕佳 「元々ないぶん、わたしは依存心がないんですよね、家族に対して。やっぱそんなひともみてこなかったし、男のひとで」

ほんとうは彼のやさしさに思い切って飛びこみたい。でも、これまで親からも恋人からも裏切られてきた夕佳さんは、怖くて飛びこめない。「帰ってくる時間を教えて」というのが、精一杯だった。

その夜、中谷くんからメールが入った。

    「もう戻らない」

夕佳 「こんな広い部屋で、こんなにいっぱい中谷くんの想い出がつまった部屋でひとりでよう生活していかんと思う」

有希 「今回は見守るだけにします。(中谷くんに)電話してあげたいと思うけど、姉貴と中谷くんの問題やし」

スタッフが学校の近くで中谷くんに逢う。

中谷 「ふたりのなかでは急じゃないと思う。たぶんむこうもそう思ってると思うし」

数日後、夕佳さんを訪れたスタッフは驚く。夕佳さんが元気になっていたからだ。
夕佳さんは、相談した母親からいわれたことに納得していた。

夕佳 「あなたは子どももいて、ふつうの19歳じゃないのよ。そんなあなたを同じ19歳の男の子が一緒にいてくれた。それだけでも感謝しないといけないって。強がらずにいっぱい泣いて、いっぱい甘えていれば、わだかまりはなくなっていたかもしれへんけど、あなたは強がって自分で歩いていった。だからいまも、ずっと小さくわだかまっているのよ。それを大事なひとにぶつけてばっかりじゃダメって」

男性スタッフ 「お母さん、ようわかってるなあ」

夕佳さんは、男性スタッフの言に満足げにうなずきながらいう。
「なんぼいうても、母親やなあと思いましたね」

上記のやりとりに対してわたしが異議を唱えるのもおかしいが、ほんとうに母親のいうとおりなのだろうか。正直なところ、男性スタッフの言にわたしはムッとしたのだ。そんなに簡単にわからないでほしい。
たしかに夕佳さんは中谷くんの胸に飛びこめなかった。中谷くんは自分の母親と夕佳さんがうまくいくといっていたが、母親に反対されたとき、中谷くんに母親の反対を押し切れるだけの靱さがあるのだろうか。
それらの不安材料の行く末を、夕佳さんが無意識下でわかっていたから動けなかったといえないか。過去の裏切られた体験が障壁になっているだけなのだろうか。本気で夕佳さんが飛びこんできたとき、中谷くんに受けとめるだけの度量があるのか。
同時にわたしは思う。ふたりが若くて未熟だからという理由で片づけられない要素がある。何歳になっても男女関係はむずかしいし、学習によってうまくなるとも思えない。相手が変われば最初から構築しないといけないし、人間は簡単には変わらない。組みあわせとしてうまくいくかどうかが、大きく左右するようにも思える。
夕佳さんと中谷くんには、救命ボートの役目を果たす材料がないぶん、関係性の内実が鋭く問われる。
一方、中谷くんは夏休みの"家族ごっこ"で、なにをつかんだのだろう。乃海くんの世話をしながら、父親の感触に触れようとしたのか。息子のためなら強くなれる夕佳さんを横にして。

家庭の愛に恵まれなかった夕佳さんは、早く自分の家庭を築きたいと願った。同じ境遇の妹の有希さんは同じ動きをしていない。ふたりの差異はどこにあるのだろうか。

別れ〜夏の終わり

中谷くんからメッセージが入った。

    「置いてあった荷物をとりにいきます」

乃海くんはつかまり立ちをし、ハイハイしている。
キッチンでふたりは話しあう。

夕佳 「ほんま、自分ひとりで立ちたいと思ってる。乃海のこともひとりでみたいし。つぎ誰かとつきあっても、乃海ちゃんのあれやって、これやってじゃなくて、自分が公ちゃんにこうしてよ、ああしてよと、ずっといいつづけとったと思うんやけど、今度は自分で一生懸命立って、今度は夕佳が相手のうれしい顔みるために、なにかしてあげたいなと思ってるんや。(「ほおーっ」という中谷くんの声)。けっこうな、ほんま、へこんでないんや。寂しいけど、公ちゃんと離れるの。(「うん」という中谷くんの声)。自分がひとつでもふたつでも大きくなれる状況つくってもらえて、すごい感謝してるんや」

玄関でふたりは向きあう。
ふたりとも微笑をたたえている。

中谷 「なんぼでも仲よくするで」

夕佳 「ほんまぁ?」

中谷 「ぜんぜん嫌いじゃないし。まあ、あえて好きとはいわんかったけど、夕佳はずっと好きやった」

夕佳 「抱っこせんでええの?」(乃海くんを左手で抱っこしながら)

中谷 「抱っこせんでいい」(笑顔できっぱりと)

中谷くんは乃海くんに「ありがとう」といいながら握手し、「鼻みずでてるよ」とやさしく声をかけ、「じゃあ」と夕佳さんの顔を正視し、笑顔が貼りついたまま玄関ドアを閉める。
夕佳さんは「気をつけてね」といい、バイバイと手を振る。

夕佳さんは笑顔で「泣きませんよ。絶対泣きませんよ。女の意地です」と強がる。つづけて「あんな言葉残していくの、卑怯ですよね。聞きました?」といいながら、中谷くんが最期に残した言葉をつぶやく。
うつむいて涙をこらえる姿が痛々しい。
ここから先は、だれも入りこむことができない世界だ。

有希さんはイラストの道へ

京都精華大学オープンキャンパスを訪ねた有希さんは、イラストの世界に刺激を受けて眼を輝かせる。
もともとイラストを描くのが好きだった有希さんは、その道に進みたいと密かに願っていた。でも、どうしても漫才をつづけたいお姉さんにはいえなかった。
有希さんは一大決心をする。コンビを組んで3年の夕佳さんに、自分の考えを話してみようと。

有希 「ここ何日間でいろいろあって、よりいっそう、姉妹間的に絆が深まった。お笑いじゃなくてもふたりでおられるんやと思ったら、一気に楽になったっていうか、ふたりでなにかするんやったら、お笑いじゃなくてもいいやろうし。乃海が大きくなって落ち着くまで待ってみてもいいかなと思うし。正直、いまはお笑いより大学行きたいほうが気もちが大きい」

夕佳 「メッチャいいだしにくかったんちゃう、きょう。ありがとう」

姉の夕佳さんが笑顔なのに対し、妹の有希さんが涙顔なのが、ふたりの立ち位置をよくあらわしている。
1歳ちがいの姉妹だが、わたしには妹の有希さんのほうが精神年齢が上のように映る。姉の夕佳さんを立てることで、ふたりの関係のバランスをとっているように思える。

観客のいない最後の舞台

ふたりにとって生きる力そのものだった漫才。
路上ライブをしたときと同じ舞台で、ふたりは客のいない漫才をする。最後に選んだネタは「家族」だった。

夕佳 「家族とはつくるもんやなくて、自然とできあがっていくもの」

有希 「自分の意見をいえるようになったのは、成長かなあと」

ふたりの5年後、10年後をみたいと思う。
おそらく別居して、それぞれ別の道を歩みながら支えあってゆくのだろう。
TVカメラが姉妹をとらえたことは、ふたりにとってどのような波及効果があったのだろうか。

本番組の感想を記す作業のなかで、撮りかたによって内容に差異があるという、あたりまえのことについて考えさせられた。対象に耳をすませる深度が問われるのである。
昨夜、河内紀著『ラジオの学校』(筑摩書房/2004年)を読み了えたせいかもしれない。河内紀氏は、現在、TVドキュメンタリーを制作している。






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1. 愛と笑いをください  [ ZERO3で見たビデオ ]   2006年12月17日 22:38
1 ザ・ノンフィクション(20060507) 愛と笑いをください 〜女子高生漫才士 子育て日記〜 内容はこの人のブログに詳しい。 残念ながら自分はこの人たちの人生・生き方にシンパシーを感じることができなかった。いいですよ俺のせいでも。