2006年10月04日

NNNドキュメント「子供たちの心が見えない」

7月30日(日)深夜に放映されたNNNドキュメント「子供たちの心が見えない」(日本テレビ)は、55分枠で授業崩壊に直面する小学校教師をとりあげていた。
長寿番組である「NNNドキュメント」は、報道ドキュメンタリー番組だが、NHKやその他の民放で制作されるドキュメンタリーとは、明らかにトーンがちがうように感じる。
全体的に淡々としていて、近ごろの番組に多くみられる過剰なナレーションや音楽がないので、昔の番組を観ているような錯覚に陥る。
地方の視点で描かれている番組らしいから、その意味でも地道さが反映されているのだろうか。
8月20日(日)/30分枠の「機影の下の闘い 40年目の成田闘争」も興味深く観た。

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千葉県の公立小学校で6年生の担任・戸村桂二教諭(43歳)は、クラス運営が困難になり、体調を崩した前任者の代役として子どもたちと格闘する。その結果、はじめて教師を辞めたいと思うほど自信喪失。
このマンモス小学校でクラス運営に悩んでいるのは、戸村先生だけではない。
全国の小中学校の3割ぐらいに授業崩壊がみられ、精神的危機に陥り、退職する教師も多いらしい。

この教室にTVカメラが入るのを許したこと自体に感心する。
当事者たちは、この番組をどのように観たのだろう。
わたしが驚いたのは、戸村先生の注意を無視するのは、男の子ではなく女の子なのだ。しかもひとりで動くのではなく、グループ化しているようだ。
小学生時代は、男子より女子のほうが成長が早いのは昔からだが、なにか一線を超えているという感じがする。
本番組では専門家の意見として、「発達加速化現象」が原因だと説明していた。

近ごろの小学1年生は、入学早々に女の子がグループ化し、担任の女性教師がお手上げになっているという話を聞いた。
6歳で「自殺」や「セックス」という言葉を級友から知り、その意味も理解しているらしい。
「自殺」の意味を親が問うと、「もう生きていくのがいやになって、自分で死ぬことでしょ」と、こともなげに答えたという。国語辞典より正確ではないか!

お手上げになった戸村先生に対し、校長を交えた緊急保護者会が夜に開かれる。
ひとりの母親が、「自分の子どもではなく、遊びにきていた子どもがいっていたのだが」と前置きをして、「担任を変えてほしいという声がある」と発言する。わたしには、その母親自身が担任の交替を望んでいるように感じられた。
戸村先生はこの発言に衝撃を受け、さらに窮地に追いこまれる。
保護者である母親たちと、戸村先生を困らせる女の子たちが、わたしには重なってみえた。
つまり母親たちは、自分の子どもに注意するどころか、得手勝手な行動をしている子どもを肯定しているように映ったのだ。

わたしが疑問に思うのは、教師に不満がある場合に、交替を選択する余地はあるのかということ。とくに小学校では、気に入らぬ教師と一日中接することになり苦痛だろう。しかしそれぞれの価値観が異なる以上、教師への不満も千差万別だ。
交替してほしいという視点に立つと、不満のある教師に対してはどのような悪態をついてもいい、という短絡的な考え方になるのではないか。
TVのチャンネルのように簡単にはいかないのである。

自分の子ども時代や、わが子が学んだ学校の教師たちを考えても、感心できる教師はひとりいたらいいほうだ。わたしは常に反面教師としてみていた。
ヘンな教師が担任になり実害を被ったこともあるが、最低限いうべきことはいい、「交替」は考えなかった。ひとは簡単には変わらない。彼が教師をつづける限り、実害を受ける子どもはふえてゆく。
実際、教師に限らず感心できる人間が多ければ、世のなかはこんなに殺伐としていない。

「どんな先生ならいいの?」という女性スタッフの質問に、女の子はふざけた声で「超イケメン」と答える。

カメラは卒業式までの1年間を追っているが、時間の推移がわかりにくかった。
さらにこのクラスの児童の中学校生活を追う必要があるだろう。
この崩壊した教室にTVカメラが入ったことで、なにか変化はあったのだろうか。

崩壊している教室風景を観ながら、同じ小学6年生を対象にしている、NHKの番組「課外授業ようこそ先輩」が浮かんだ。。
授業崩壊しているこのクラスで「課外授業」を実行したら、どういうことになるのだろう。
戸村先生の言葉尻をとらえて茶化す女の子に対峙できるのは、リリー・フランキー水谷修だろう。
授業崩壊した教室で彼らが「課外授業」をしたら、おもしろいと思う。

というのは、以前にNHKラジオで聴いた藤原新也の話を想起したからである。
故郷の門司でイベントがあり、公募して撮影した少女の母親から後日連絡があった。「不登校の娘が撮影以後、学校に行くようになった、なにかあったのでしょうか」と問われ、「写真を撮っただけです」と答えたという。
藤原が数人の少女を選んだ理由を語っていた。選ばれた少女たちは、その時点でこころのなかを透視されたのだろう。
カメラのレンズを媒介にして、藤原の視線が少女の隠された"裸心"を射抜いたのだと推察する。
少女が認識している"ほんとうの自分"と、藤原がキャッチした"少女像"が一致したのだと思う。
換言すると、変わりうる要素を感じられた少女を、藤原が選択したのではないか。

藤原新也は少女から時代を読み解こうとしているらしく、つぎつぎと少女をテーマにした写真集を刊行している。

【インタビュー】写真家 藤原新也氏に聞く、デジタル時代の表現と「渋谷」


授業崩壊は教師への暴力も含まれているようだ。

公立小学生の校内暴力、過去最多に 対教師30%超増(asahi.com/2006年09月13日)

校内暴力:深刻な対教師暴力の実態浮き彫りに…現状探る(msn/2006年9月13日) 


 

miko3355 at 17:51│TrackBack(0)TV・ラジオ 

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