2014年06月22日

映画天国「あるスキャンダルの覚え書き」

2014/06/16の深夜、日テレで放映された映画「あるスキャンダルの覚え書き」を観た。
わたしの好きな映画だ。
省略が効いていて、観る人間の想像力にゆだねる構成が心地よい。

以下のあらすじはわたしの記憶によるので、まちがっているかもしれないことをお断りしておく。

定年間近な歴史教師・バーバラは、新任の美術教師・シーバ(ケイト・ブランシェット)に惹かれ注視するうち、シーバと15歳の教え子の少年との悦楽現場を目撃してしまう。
バーバラはシーバの秘密を守ることで共犯者となり、シーバを支配しようとする。
バーバラはシーバに関係を絶つようアドバイスするが、シーバは断行できない。
ある日、バーバラの飼い猫が死に、哀しみをシーバと共有したいと切望する。
が、シーバはダウン症の息子が学芸会で演じるのを家族と観るほうを優先させる。
その決断がバーバラの逆鱗に触れ、相談のため自宅を訪れた同僚男性にシーバの秘密を口にすることで、噂が校内に拡がることを画策する。

すべてを失ったシーバは、バーバラに助けを求める。
バーバラの家で自分のことを克明に綴った日記を発見したシーバは、バーバラの裏切りを知り、罵倒する。
シーバはやむなく夫のもとに帰り、夫は家のなかに迎え入れる。
夫はいつかこのようなことが起こると予想していた。
シーバは彼の教え子であり、年長だから。
15歳を相手にしたことが致命的だった、という考えらしい。

バーバラは平然と新しいノートを買い求める。
日記を綴ることが、バーバラが生きることを意味する。
そしてベンチに座る若い女性に声をかける。
つぎの獲物を密かに狙っているのが、見事なラストシーンだ。

バーバラは怖い人間だが、妙にリアルだ。
それはわたしの周囲やわたし自身の体験から、バーバラやそれ以上に怖い人間が多く存在するから。
しかもフツウの人間の顔をしているから厄介なのだ。
バーバラは同性愛者のようだが、行為に及んでいるとは想像しにくい。
バーバラの最大の親友は日記帳だったのではないのか。

バーバラの入浴シーンは唐突だが、わたしは好きだ。
自分の孤独感はシーバにはとうていわかりえない、という意味のことを呟くのだが、ジュディ・デンチの演技が淡々としていて、好感をもてる。
ストーカーの素質のあるバーバラを嫌みなくみせているのは、特異な演技力が観るものの共感を呼ぶからだと思う。

この映画のなかで最も怖かったのは、15歳の少年だ。
シーバに執拗に近づき、母親が病気で、父親に暴力を振るわれているというウソを平気でつき、シーバの同情を誘発する。
スキャンダルが発覚したあと、シーバに対しても冷酷だ。
どんなシーンでも眼に表情がない。
少年の内面は明らかに病んでいる。

わたしはジュディ・デンチの演技力に圧倒され、ケイト・ブランシェットにはあまり興味がなかった。
ただ彼女が演じたシーバが悦楽に耽溺するのは、単に肉体面だけではないこころの空洞があるように感じた。
ダウン症の息子の育児や家事に加え、美術教師としても懸命なシーバが、ふと羽を休められるのが少年だったのではないか、というのは邪推だろうか?

いずれにしても、観るがわの妄想をたくましくさせる映画である。





miko3355 at 23:22│TrackBack(0)TV・ラジオ 

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