2014年09月18日

NNNドキュメント「兄(おにい)   妹『筋ジスになって絶望はないの?』」

9月15日(0:50〜1:20)、日テレで放映された「兄〜おにい〜」を、なんの先入観もなく観た。
感動という言葉が薄っぺらく感じるほどのドキュメンタリー作品だった。

本作はNNNドキュメント44年の歴史上初の、監督が現役の学生だという。
大阪芸術大学映像学科の米田愛子さんが兄を描いた本作は、「第18回 JPPA AWARDS 2014」でシルバー賞を受賞した。

以下、記憶にまかせて印象に残ったことを書く。

妹の鋭いインタビューに対し、兄(おにい)は終始、笑顔で受け答えしている。
彼の透明な表情をみていると、現実世界やTVで人相の悪い顔をみてうんざりしているわたしには、救われる想いだった。
あと、部屋が整然としているのも心地よい。
肩に負担がかからないように工夫して服を着る映像がある。
裸の上半身は筋肉が衰えていて、痛々しい。

体操部に入った高校生の兄(おにい)は、いくら練習しても上達しなくて、先生に「からだがおかしいから、病院へ行け」といわれる。
筋ジストロフィーだと診断した医師に、「小学校のときからですよ」といわれた。
そのときは、「ほっとした。これでもうゲロを吐かなくてすむ」。
筋力の衰えに抗して激しい練習をしたため、からだが悲鳴をあげていたと、観る側は容易に想像できる。

自殺も考えたが、やはり生きていたい。
兄(おにい)の哲学は「忘れること」。
いま、自分の周りにいる友だちも、いずれは家庭をもつ。
そのときには、自分のことを忘れてほしい。
わたしには「自分のことを忘れて幸せになってほしい」というふうにも聞こえる。
日々の筋力の衰えに対し、自分が過去にできたことさえ忘れることによって、病状とのバランスをとる精神力が不可欠だということだろう。

恋愛については、仕事をして家族を養うことはとても考えられない。
likeでいい、と。

家族旅行の映像が流れた。
自分は盛りたて役なので、あとでからだが痛くなることがわかっていても動いてしまう、と語る。
誰に対してもサービス精神旺盛な兄(おにい)だが、孤独感に裏打ちされた克己心が透けてみえる。

仕事については、現実はきびしい。
このくらいできるだろうと思われる仕事でも、あとでからだが痛くなる。
いまは友だちの紹介で仕事がみつかったらしいが、兄(おにい)はどこまでもポジティブシンキングなひとなのだ。
わたしには妹についても、そうみえる。
その根拠は、本作のラストだ。
兄(おにい)に対して語りかけた妹のナレーションに、ユーモアを感じたからだ。

それにしても、どうして兄(おにい)のような好青年が、過酷な病気になってしまったのか。
わたしは天を仰ぎ嘆息する。

諦めることではなく、忘れること。
わたしのなかで「忘れる」と語った兄(おにい)の笑顔が、残像として消えない。

miko3355 at 11:19│TrackBack(0)TV・ラジオ 

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